溶連菌感染症

A 群溶血性連鎖球菌(以下溶連菌)」という細菌が原因の感染症です。扁桃炎などの上気道感染症や皮膚感染症(伝染性膿痂疹、いわゆる「とびひ」)は子どもたちの間で頻繁に見られます。また、全身感染症である「猩紅熱」を引き起こすこともあります。注意すべき点として、溶連菌はいろいろな症状の原因となり、場合によっては重症感染症にも繋がりかねないことと、合併症として発症数週間後にリウマチ熱や腎炎などをおこすことがあることが挙げられます。たかが「溶連菌」と侮らず、全身症状が強いときは安静にし、注意深く経過を観察する必要があります。

病原体 A群溶血性連鎖球菌

潜伏期間 2-5日、膿痂疹(とびひ)では7-10 日。

感染経路 飛沫感染、接触感染。

感染期間 有効な抗菌薬を投与すれば、治療開始後24 時間で感染力は低下するとされています。

症状

上気道感染:発熱と咽頭痛、咽頭扁桃の腫脹や化膿、リンパ節炎。通常、溶連菌感染症単独では咳や鼻汁など風邪の時に見られる症状は殆ど認めません。重症型として、「咽後膿瘍」や「扁桃周囲膿瘍」と言って、のどの組織の深い部分に感染し化膿させる病気の原因になることがあります。

猩紅熱:発熱、咽頭炎、扁桃炎とともに舌が苺状に赤く腫れ、全身に鮮紅色の発疹が出る、溶連菌による全身感染症です。幼児期後半・学童に多く見られます。発疹はかゆみを伴うことが多く、手触りはザラザラとしていて「紙やすり状」と称されます。発疹がおさまった後は、皮膚が落剥(皮膚の角質がパラパラと剥ける)してきますが、痛みはありません。「上気道炎」よりも高熱が持続し、ぐったりすることが多いです。

いずれの場合も、抗菌薬による治療が不十分な場合は今から述べる「リウマチ熱」という病気が後に起こることがあります。

リウマチ熱:溶連菌による上気道炎や猩紅熱に対して、抗菌薬による治療が十分されなかった場合に起こる合併症です(但し、必ず起きるわけではありません)。溶連菌の菌体成分と自身の体の組織の成分を、免疫システムが勘違いして自身を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一種とされています。症状として「関節炎」、「心炎(主に心内膜炎)」、「舞踏病(脳の中の運動の協調をつかさどる部分の炎症による運動障害)」、「皮膚症状(輪状紅斑や皮下結節)」が特徴で、特に「心内膜炎」は、心臓の中で血液の行き来を調節する大切な「弁」を壊してしまうことがあるため、重症の心臓病の原因となったり、突然死の原因になったりする可能性があります。日本を含めた先進国では滅多に発生しない病気になりましたが、発展途上国では未だに多発しているそうです。

溶連菌(感染)後急性糸球体腎炎:これもリウマチ熱と同じく、「自己免疫」の病気とされています。溶連菌にかかったことで、自身が自分の腎臓の組織を間違って障害してしまうことで起こります。溶連菌に罹った時に、抗菌薬でしっかり治療すれば予防できる、という説と、治療しても起きてしまうことがある、という説があります。溶連菌感染症の発症から13週間後に、尿量が減ったり、顔や全身がむくんだり、血尿(よく「コーラ色」と称されます)が出たり、血圧が上がって頭痛がしたり、などの症状を示します。この合併症の早期発見のために、診断後24週間の頃に尿検査を行うこともあります。この尿検査については、必要だとする意見と、しなくても症状を観察するだけでよい、という意見がありますので、担当の先生とよく相談して下さい。

伝染性膿痂疹(とびひ):とびひの原因としては「黄色ブドウ球菌」の方が有名かもしれませんが、溶連菌でも起こります。水疱から始まり、膿疱、痂皮(かさぶた)へと進行します。溶連菌のとびひは、かさぶたになった後もかさぶたの中に生きた菌がいるので感染力があることに注意が必要です。特に水ぼうそう(水痘)の時に溶連菌のとびひになると非常に重症化することがあります。

劇症型溶連菌感染症:溶連菌は時により、皮膚や筋肉、脂肪組織などに感染し、急激に進行・拡大することがあります。けがをした部分や分娩時の溶連菌感染をきっかけに起こることが多く、数時間の経過で組織が壊死(腐ってしまうこと)したり、死亡に至ることもあり、そのためこの菌は「人食いバクテリア」と恐ろしいあだ名で呼ばれることがあります。この病気は小児から成人まで、幅広い年齢層で報告されていますが、30歳以上の成人で多いのが特徴です。直ちに診断し、抗菌薬投与を含めた集中治療を行うことが必要になります。

診断法:最もよく使用されるのは溶連菌抗原の迅速診断キットです。上気道炎の時はのどの粘膜を綿棒で擦って、その場で診断します。他に、細菌培養、抗体検査が用いられることもあります。

治療法:抗菌薬

予防法:飛沫感染、接触感染として、手洗いなどの一般的な予防法の励行が大切です。かかってしまった場合には、担当の医師の指示通りの期間、集団生活から離れましょう。

登校(園)基準:適切な抗菌薬による治療開始後 24 時間以内に感染力は急激に低下するため、それ以降から登校(園)は可能です。厚生労働省の「保育所における感染症対策ガイドライン」では、抗菌薬内服後24-48 時間経過していること、と記載されています。