血液や体液を介して感染するウイルス性肝炎の一つで、B 型肝炎ウイルス(HBV)が原因です。以前から輸血に伴う感染や、出産に伴う母親からの垂直感染が問題となってきましたが、輸血用血液のスクリーニング検査や、HBVキャリアの母親から出生した赤ちゃんへの予防処置の普及によって発生数が減少してきています。しかし、赤ちゃんへの予防処置が不十分だったり、稀ではありますが胎内感染により出生時にすでに母児感染している場合、水平感染により幼少時に家族内感染している場合、思春期以降に性交渉感染する場合があり、日本では、年間6,000 人以上の新規感染者があるとされています。更に、HBV による肝がんの死亡者数は年間約5,000 人、肝硬変による死亡者数は年間1,000 人と推計されています。
病原体:B型肝炎ウイルス(HBV)
潜伏期間:45-160 日(平均90 日)
感染経路:HBV キャリアの母体からの垂直感染、血液・体液の接触による水平感染、性行為感染による経路があります。最近、涙や唾液からも感染する可能性が指摘されています。
症状:新生児期を含めて、乳幼児期の感染は症状を起こさずに経過することが多いのですが、低年齢(おおむね3歳未満)でHBVに感染すると持続感染(HBV キャリア:体内にウイルスが潜んでいる状態。基本的に自覚症状はありません)に移行しやすいとされています。一方で、急性肝炎として発症した場合の症状は、倦怠感・発熱・黄疸などです。通常、HBVによる急性肝炎は一過性の経過で治癒し、ウイルスも体内から排除されることが殆どです。しかし、稀には急性肝炎がそのまま重症化して死に至る場合もあります(劇症肝炎)。一方、急性肝炎にかかった人の10-15%では、ウイルス排除がされずキャリア状態となり、慢性肝炎、肝硬変、肝癌へ進行することもあり得ます。また近年、体内に潜んでいたHBV が様々な免疫抑制療法の治療中に再活性化し、場合によっては重症肝炎で亡くなる症例もあることが問題となっています。
診断法:血液中の抗体、抗原・DNA検査など。
治療法:急性肝炎の場合は対症療法を選択する場合が多いです。慢性肝炎では抗ウイルス薬やインターフェロン療法などの治療があります。
予防法:家族内にHBVキャリアがいる場合には積極的にワクチン接種を行いましょう。母子感染予防はその一環であり、HB 免疫グロブリンとワクチンを用いて予防を行います。感染を確実に防ぐためのスケジュールが定められているので、接種忘れがないようにしましょう。血液・体液を通じての感染ですので、歯ブラシやカミソリの共用はやめましょう。保育園など不特定多数の乳幼児が生活するところでは、病院などで採用されている標準予防策と同様に、血液に触れる場合は使い捨て手袋を着用することが望ましいです。
登校(園)基準:急性肝炎の急性期でない限り、登校(園)は可能です。HBV キャリアの登校(園)を制限する必要はありません。ただし、キャリアの血液に触れる場合は手袋を着用するなど、「標準予防策」を守ることが大切です。例外的な場合、例えば HBV キャリアが非常に攻撃的でよく噛み付く、出血性疾患がある等、他の児に感染を引き起こすリスクが高い場合は、主治医、保育者、施設責任者が個別に評価して対応します。
一番良いのは、全ての子どもたちが等しくワクチンを受け、集団の中にキャリアの子がいてもいなくても、B型肝炎に関して「うつす/うつされる」心配をせず、安心して過ごせる状況を整えることでしょう。
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