日本において、2012 年頃よりワクチン未接種の成人男性を中心に流行しています。ピンク色の全身の発疹、発熱、リンパ節の腫脹と圧痛を訴える感染症です。脳炎、血小板減少性紫斑病、関節炎などの合併症がみられることがあります。しかし、風疹で一番大きな問題は、妊娠早期に妊婦が罹ると子宮内の胎児に感染し「先天性風疹症候群」(下記参照)と呼ばれる先天異常が生じることがあることです。妊娠早期の感染ほどリスクが高まり、例えば妊娠1 か月以内の感染では50%以上の頻度で生じるとされています。
病原体: 風疹ウイルス
潜伏期間: 主に 16-18 日(14-23 日)
感染経路(発生時期):飛沫感染、接触感染。春季の流行が多いが、秋季から冬季にみられることもあります。
感染期間: 発疹出現 7 日前から発疹出現14 日目頃(特に発疹出現数日前から7 日後)まで。
症状: 発熱と同時に発疹に気付く疾患です。ここが麻しんとは異なります。発熱の程度は麻しんほどひどくなく、微熱で留まったり、発熱そのものに気が付かないことも多いです。発疹の特徴は、バラ色の発疹が全身に出現します。 3-5 日で消えて治るため俗に「三日はしか」とも呼ばれます。発疹が消えた後には麻しんのような色素沈着は残りません。リンパ節が腫れることが特徴で、頚部、耳の後ろや後頭部にみられ、圧痛を伴います。3,000人に1 人の頻度で血小板減少性紫斑病を、6,000 人に1 人の頻度で急性脳炎を合併するとされています。
前述のように、妊婦の感染により胎児に耳、眼、心臓の異常や精神運動発達遅滞を伴う先天性風疹症候群を発症することがあります。
診断法:症状から疑った場合、抗体検査や遺伝子検査等で確定診断を行います。麻しんとの区別をする必要もあり、風しんも麻しんと同様、全例報告義務がある感染症です。
好発年齢: ワクチン普及前は 5-15 歳に多く流行しましたが、2012 年頃よりワクチン未接種の20-40 代成人男性(以前の定期接種は女子だけを対象にしていたため)を中心に流行しており、妊娠出産年齢女性へ感染が波及し、先天性風疹症候群の症例が急増しています。
治療法: 有効な治療薬はなく、対症療法が行われます。先天性風疹症候群に対しても同様で、心疾患や白内障に対する手術や難聴に対する補聴器の装着など、個々の疾患に対する治療・対応と、障がいに応じたリハビリテーションが重要になります。
予防法: 麻しんの予防と同様、日本では、2006 年より麻疹風疹(MR)混合生ワクチンとして、1 歳時に第1 期接種、小学校入学前1 年間(年長児)に第2 期定期接種が導入され、他の先進国と同様に2回接種が行われるようになりましたが、未接種者もいます。法定年齢外でも任意で予防接種が受けられます。
感染拡大防止法:飛沫感染、接触感染として一般の予防方法を励行します。
登校(園)基準:発疹が消失するまで出席停止とします。
先天風疹症候群について(国立感染症研究所)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubellaqa.html参照
風しんに対して免疫を持っていない女性が妊娠中に風しんにかかると、風しんウイルスが子宮内の胎児に感染して引き起こされる先天性の病気です。難聴、心臓の奇形、白内障、脳の異常が起こります。
元来、風しんのワクチン接種は、先天風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)の予防を第一の目的に行われているのです。
歴史的にみても、風疹の流行年とCRSの発生の多い年度は完全に一致してきました。例えば1960年代の沖縄では風しんの大流行が起こり、そのため多くのCRSの赤ちゃんが生まれました。また、妊娠中に風疹にかかった妊婦さんの中には、CRSの赤ちゃんが生まれることを心配して人工中絶を選択した人も少なくありませんでした。大変悲しく、残念なことです。
日本では、以前まで風しんのワクチンは将来の妊婦さんに免疫をもっていてもらうことを第一の目的として、中学生の女子にのみ接種していました。つまり、パートナーとなる男性は風しんに対する免疫を持たないまま成人になっていたのです。そんな中、この年代の男性たちを中心として2012年から風しんの大流行が起こり、今の日本でもCRSの赤ちゃんが複数例出生しています。
この事態を受け、国と各自治体は、風しんにかかったことがない、あるいは予防接種を受けたことがない①妊娠を希望する女性、②妊婦および妊娠を希望する女性の夫・パートナー・同居者、③昭和37(1962)年4月2日〜昭和54(1979)年4月1日生まれの男性を対象に、風しんの抗体検査を無料で実施されています。抗体検査の結果によりワクチン接種が望ましい場合には費用の助成(や風疹の第5期の定期接種として)が受けられます。助成制度は各自治体で異なりますので、詳しいことは自治体のホームページなどで確認してください。
※北九州市のホームページへのリンク
●「風しんの第5期の定期予防接種(成人男性の風しんの予防接種)
CRSの予防で重要なことは、妊婦さんとその周囲の人たちが風しんに対して十分な免疫を持つことです。罹ったことがはっきりしない、あるいは予防接種を受けた記録・記憶がない場合には、抗体検査の結果も参考にしつつ、ワクチンで免疫を付ける(高める)必要があります。
また、風しんワクチンは生ワクチンであるため、妊娠中のワクチン接種は避けるべきで、このワクチンを接種した後2か月は避妊するよう指導されます。しかし、万が一、妊娠に気が付かずワクチン接種をしても、過去のデータではCRSによる障害児の出生は1 例もないので、心配し過ぎずに妊娠を継続して下さい。
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おおてまちキッズクリニック内 担当:佐藤東