感染症の予防方法
はじめに
ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体が我々ヒトなどの生き物(「宿主」と言います)の体に侵入し、臓器や組織の中で増殖することを「感染」と言います。そして、その結果として引き起こされた病気を「感染症」と言います。
つまり、厳密に言うと「感染」=「感染症(病気)」ではないことになります。
さて、「感染症」が宿主の体で成立するには必ず3つの要素が必要となります。それら3つを医学用語で言うと、
①病原体
②感染経路
③感受性宿主
となります。
①は、ヒトの病気の原因となる、様々なウイルスや細菌などです。
また、②と③は・・・、
②=感染している宿主からどのような経路をとって他の宿主にうつるか。つまり、病原体の辿る道筋。
③=その病原体に対して抵抗力をもっていない宿主。
と言い換えることができます。
感染症を予防するということは、それぞれの要素に対して対策を取る、ということです。
例えば、
①の病原体に対しては、正しい消毒法で病原体そのものを減らしたり無くしたりします。
②の感染経路に対しては、汚染物を触った後に正しい方法で手洗いをする、必要に応じて正しくマスクを着用し自分から感染源をまき散らすことや、自分が病原体を吸い込んでしまうことを防ぐ、などの方法があります。
③の感受性宿主対策としては、バランスの良い食事で適切な栄養を摂ったり、しっかり睡眠時間を確保したりして体調を整えること、そして「予防接種」を適切に受けて、予め抵抗力を付けたり高めたりすること、などが挙げられます。
まず最初に「感染経路」についての知識を整理して、それから実際の予防方法について見てみましょう。
(1)感染経路について
感染経路は以下の4つに分けられます。全ての病原体はこの4つの方法のいずれかの経路で感染します。ただし、1つの病原体が1つの経路しか持たないわけではありません。複数の経路を持つ病原体がたくさんあることに注意が必要です。
1)空気感染
感染しているヒトからくしゃみや咳などで飛び出した病原体が小さな粒(飛沫核、と言います)にくるまれて、空気の流れに乗って遠くまで運ばれ、同じ空間にいる他の感受性宿主がそれを吸い込むことによって感染が成立する経路です。結核、麻しん(はしか)、水痘(水ぼうそう)がこの経路で感染します。空間全体の管理が必要となるため、感染経路対策が非常に困難です(なので、予防接種がとても重要です)。
2)飛沫感染
感染しているヒトの咳やくしゃみの中の病原体を含んだ「しぶき(飛沫)」を吸い込むことによって感染が成立する経路です。いわゆる「カゼ」に含まれる感染症はこの経路をとります。たとえば、インフルエンザやRSウイルス、最近話題のヒトメタニューモウイルスなどです。飛沫は1~2mしか飛ばないのでそれ以上の距離が離れていれば基本的にはうつりません。マスクを正しく着用することで、ある程度の予防効果が期待できます。
3)接触感染
感染しているヒトや汚染物に触れることで付着した病原体が、体内に侵入することで感染する経路です。侵入の窓口は、口や鼻、目などの粘膜が主となります。ロタウイルスやノロウイルスを代表とする胃腸炎(いわゆる「嘔吐下痢症」)の病原体の主な感染経路は接触感染です。あるいはインフルエンザやRSウイルス、プール熱の原因となるアデノウイルスなどもこの経路で感染することがあります。特に、清潔不潔の区別がまだつかない(=いろいろなものを触ったり口に入れたりする)小さな子どもが集団で過ごす環境では、頻繁に接触感染が起こると言えるでしょう。
4)経口感染
汚染された食物や手指を介して、病原体が口から胃腸に入って感染する経路です。ノロウイルスを含んだ生ガキや、o-157に代表される腸管出血性大腸菌やサルモネラなどで汚染された牛肉を生焼けで食べることで感染することがあります。あるいは、これらの病原体を含んだ便の排泄後の手洗いが不十分だと、トイレのドアノブなどの環境が汚染され、他のヒトへの感染の原因となることもあります。
(2)感染症予防の方法
それでは、具体的な方法をみていきましょう。
1)手洗い
手洗いは、感染症予防の基本です。自分から他人や環境に病原体を付着させないために、また、自分の手に付着した病原体を自分の体に入れないために、単純ですが非常に重要な作業です。
もちろん、皆さん日々手洗いはされていますよね。しかし、「正しい手洗い」方法について、聞いたことがある方はあまり多くないのではないでしょうか。
「正しい手洗いの方法」・・・医学用語では「衛生的手洗い」と言います。
30秒以上流水で洗うことが基本です。時計や指輪などは事前に取り外しておきます。
①液体石鹸を泡立て、手のひらをよくこする。
②手の甲を伸ばすようにこする。
③指先、爪の間を念入りにこする。
④両指を組み合わせ、指の間を洗う。
⑤親指を反対の手で握り、ねじり洗いをする。
⑥手首も洗った後で、最後によくすすぎ、その後良く乾燥させる。
このように「正しい手洗い」はちょっと面倒です。
でも、この方法で手洗いをするとインフルエンザもノロウイルスも十分に洗い落とせることが科学的に証明されています。
感染症の流行期などには特に心がけていただき、子どもたちにも教えてあげてください。
2)咳・くしゃみ対策
「咳エチケット」という言葉は、皆さん聞かれたことがあると思います。飛沫感染予防にとても重要なエチケットです。大人の方が率先して身につけ、小さな子どもたちにも教えてあげて下さい。
「咳エチケット」
・咳が出る時はできるだけマスクをする。
・マスクがなくて咳やくしゃみが出そうになった時はハンカチ、ティッシュ、タオルなどで口を覆う。
このハンカチやタオルは決して他の人と共用しない。ティッシュはすぐにゴミ箱に捨てる。
・ハンカチやティッシュがない時は、手のひらでなく、肘の内側や肩口などで咳やくしゃみを受け止める。
・手で咳、くしゃみを受け止めてしまった時はすぐに手洗いする。
3)嘔吐物・便などの排泄物対策
嘔吐物や下痢便などで生活環境が汚染された時の処理の方法です。
①処理にあたる人はまずゴム手袋とマスク(できればゴーグルも)を装着します。
②排泄物はペーパータオルや使い捨て雑巾で外側から内側へ、周囲にしぶきが飛び散らない様に静かに拭き取ります。
③拭き取った物はビニール袋に二重に入れて破棄します。
④便や嘔吐物が付着した場所を塩素系漂白剤(200ppm程度=市販の塩素5~6%の漂白剤を200倍に希釈;塩素系消毒液4ml(ペットボトルキャップ1杯)+水1L)で消毒します。
⑤処理を終えた後は十分に「正しく」手を洗いましょう。手袋をしていても、外した後にはしっかり手洗いすることが大切です。
注意!! 塩素系消毒液は扱い方によっては猛毒となります。取り扱い説明書をよく読んで使用してください。
おまけ) 標準予防策について
血液、唾液などの体液、糞便や嘔吐物など、人の体から排出された液体を含む成分にはすべて感染性がある、として取り扱う医療現場での鉄則です。
1)これらに触れる時は必ず手袋をする
2)処理後は必ず手を洗う
3)必要に応じてマスクを装着する
ことが基本となっています。小さな子どもがいる家庭内でこの対策を徹底するのはなかなか難しいですが、自分と家族、周囲の人を感染症から守るために心がけたいことですね。
4)予防接種
ワクチンで予防可能な感染症については、特に子どもたちが集団生活に入る前に免疫を付けてあげましょう。これは我が子を守るためだけではなく、一緒の集団で過ごすたくさんの他の子どもたちを守るためにも大切なことです。例えば、アメリカでは州によって必要な予防接種がきちんと受けてあるとの証明書の提出が学校入学の条件として義務づけられています。
日本でも今はワクチンの種類がたくさんに増えて、いつ頃何を接種したらよいのか、お家の方だけで判断するのは大変な作業です。是非、かかりつけの先生と相談しながらスケジュールを立てましょう。詳しいことは「予防接種」のページを参照してください。
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おおてまちキッズクリニック内 担当:佐藤東